『流れ星、落ちる先』
 コンビニの控室。三ヶ月前に入ったばかりの善之が、店長代理の拓弥に「辞めたい」と言い出す。理由を聞くと「だいたい仕事を憶えたから」という。「仕事を憶えてからが仕事でしょ」。同じ時給で責任が増えていくのが嫌だという。時給を10円あげてやるというが、はたして今、10円でなにができるのか?

 「時給が10円上がったんですよ」と、バイトしている奴が嬉しそうに私に言う。「へえ、そうなんだ」と答える。その時に「なんだ10円かよ」と言ってはいけないんですよね。「おまえも仕事になれてきたから、賃金を上げてやるぞ」ということで10円上がってるからなんです。しかし、これはどのように捉えればいいんでしょうか? こういうのが気になるのは私だけなんでしょうか? どうもね、10円上がるくらいじゃ、素直に喜べないんですよ。ひねくれてるんですかね。だって、1日8時間働いても上乗せされる賃金は80円なんですよ。なんだろうって思うんですよ。そして、その80円を自分が、その仕事でがんばってきた評価として受け入れなければならないんです。以前書いた芝居にこんな台詞があるんです
「お金っていうのは、経済の流れの中の交換手段として重要なだけじゃなくってね、社会がそれによって、私達の仕事を評価して、さらにそれによって、私達自身が、自分を評価する基準として重要なのよ」
 どうしても、10円上げてやるからな、10円上がったぁ、というバイト先での関係が・・わからないんです。

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